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今回の東日本大災害の発生で私たちが備えてきた「危機管理」(「クライシス・マネージメント」)の限界を思い切り知らされた。大きな自然の力が私たちを「想定外」の危機的状況に落とし込んだとき、これまで対立や衝突を避けて問題を先送りにしてきた事なかれ主義のツケが回ってきた、と感じた人は筆者以外にも少なからずいるだろう。
今、私たちに問われているのは、この「危機」をどう乗り越えいかに新たな創造を生むかであろう。「危機」という日本語は「危険」の「危」と「好機」の「機」から成り立っているのだから「危機」を日本の未来の「チャンス」とすることもできよう。
大災害で未曾有の困難の中にある日本人の我慢強さが世界を驚かしたと話題になったが、近い将来には、「我慢強さ」だけでなく地球の至る所で活躍する日本人の「リーダーシップ」で世界の人々を驚かせたいものである。その可能性を「危機」の中の子供たちの姿に垣間見た。
震災直後の3月14日の新聞には、被災者自らがボランティアとして食料の配給などをしている避難所で「みんなが苦しいとき、元気な僕らが積極的にお年寄りたちを助けたい」とバナナを配る中学1年生の男子生徒が紹介されていた。80歳の祖母を支えて瓦礫の下から9日ぶりに生還した16歳の男子の冷静な姿は大きな感動を与えてくれた。東京の大学3年生10人は被災地の受験生に参考書を送ろうとインターネットで呼びかけ、集まった全国からの元受験生の使用済み参考書を「被災地の復興と大学入学ガンバレ」といった応援メッセージとともに、彼らの寄せ書きも添えて贈った。
若いスポーツ選手たちも負けていない。韓国のフィギュアースケーターのキム・ヨナは世界選手権での賞金を寄付した。プロゴルファー19歳の石川遼は、今年の獲得賞金をすべて被災地に贈ると発表し多くの人々を驚かせ、さらに避難所を訪れて子供たちにイソップの童話を読み聞かせゴルフのレッスンの手ほどきをしていた。
そしてごく普通の人々が相手を思いやりお互いに助け合うために行動している。その中に子供たちの姿もあった。恐らく、今、子供たちは学校では学べなかったことを多様に学習しているはずだ。非日常の中にあるとき、人はふだん見ていないものを目の当たりにし多くを知る。そして考える。「危機」での体験は人を賢く強くするはずだ。見方を変えれば「危機」は成長の「チャンス」でもあるのだ。
私たち大人は「想定外」の可能性があることをこの震災で知ったと思う。災害前と後でこれまでの私たちの考えが少し変化したであろう今こそ、日本の未来を生きる子供たちのために何をするのかを大人たちは真剣に考えなくてはならない。それには前例に囚われない発想の転換が必要である。
これからの日本の担い手となるのは子供たちである。その子供たちの可能性を伸ばし、彼等が世界を舞台に羽ばたきリーダーシップを発揮できるような未来の設計図を作ってあげよう。対立や衝突を恐れずに多様な考えの中から合意を導く<協調的交渉>の体得を含め、道筋を子供たちに示したら、あとは彼らの力を信じて見守りサポートしていく。そんな教育ができたらいい。